藻屑蟹/赤松利市

震災後の原発周辺での除染作業、そこに集まる人と金を描く小説。

藻屑蟹 (徳間文庫)

藻屑蟹 (徳間文庫)

 

 

大きな収入を求めて震災後の原発周辺での除染作業への参加を決める主人公、そこで彼を取り巻く人々や金、作業員として多額の収入を得る事で生じる主人公の疑問や気持ちの変化を、元除染作業員の著者が、震災後の原発の事実を交えて描いている。

当初は、ただ漠然と大金を得る事を夢見ていただけの主人公が、実際に大金を得る立場に至る過程で、金で人生を狂わせられる友人の姿や、金ではなく人のために原発の作業を行う人間の姿を目の当たりにする。そのことによって様々な葛藤に苛まれ、だんだんと物事に対する価値観や当初の気持ちにも変化が訪れるようになる。

純粋に物語としてとても面白いのだけれど、それだけではなくて、全てが真実かどうかはさておき、実際に震災後の原発を取り巻く闇の部分がノンフィクションで描かれていて一気に読んでしまった。やはり実際に現場で作業していた経験を持つ著者が書く内容だとどうしても説得力がある。

特に、過剰な補償金による避難民と受け入れ先の地元民との分断構造の話などは目から鱗で読み入ってしまった。一見すると震災被害者を救うためにある政策が、実は裏に潜む大きな目的を達成するための手段で、結果的に震災被害者が犠牲になっているという内容は大きな驚きだったし、現実に起こっている事だとしたらとても悲惨な事だと思う。

この著者の作品は初めて読んだのだけれど、圧倒的な筆力に、久しぶりにページを捲る手が止まらないという読書ができた。他にも作品を執筆しているようなので、著者の他作品も読んでいきたい。