断片的なものの社会学/岸政彦

社会学者である作者が、自身の研究や日常生活の中

で感じた事をまとめたエッセイ。

 

人生は、断片的なものが集まってできている

 

断片的なものの社会学

断片的なものの社会学

  • 作者:岸 政彦
  • 出版社/メーカー: 朝日出版社
  • 発売日: 2015/05/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

なかなか独特の書き方をしたエッセイだと思う。

作中には、基本的に作者の体験をもとにした捉えどころのない話が書かれている。

書かれている話はとりとめのない日常の断片的なものなのだけれど、そこから、他人と関わって生きていく上で重要になるものを見出していく感性が鋭くて面白かった。

 

また作中には、作者が研究のために行なったインタビューの内容をそのまま文章化したようなものが書かれている。

インタビュー相手である風俗嬢や80歳の路上ギター弾きの男といった、いわゆる社会的マイノリティの人々が、淡々と自分の生い立ちについて話す内容である。

それなんかは、ただ会話文が書かれているだけで、特に考察等が書かれているわけではないのだけれど、そのような人生、それこそが世界の一部であると肯定する作者の考えが感じ取れて、そこを読んでいる時に自然と優しい気持ちにさせられたのが印象的だった。

 

作者は、何か特別なものにではなく、普通のものにこそ魅力がある。といった事も書いている。

具体的にはその辺の何の変哲も無い小石だったり、名前も顔も知らない誰かの5年更新されていないブログといったものが例にあげられている。

それら「誰にも隠されていないが、誰の目にも触れない」ものに惹かれる。その感覚はとても共感できるものがあった。

知らない誰かの、何年も前に更新が途絶えたツイッターの本当に何気ない-例えば「雨なう」のような-呟きを見てノスタルジーを感じた経験が自分にもあった事を思い出した。

 

生きづらい世の中を他人とつながりながら生きるために、スッと背中を押してくれるようなエッセイだと感じた。