ことり/小川洋子

 真理を見抜く周縁の人々を照らす小説。

ことり (朝日文庫)

ことり (朝日文庫)

 

小鳥の言葉を理解し自ら編み出した言葉を話す兄と、唯一その言葉を理解することができる弟の暮らしが描かれている。

兄の話す言葉は、弟以外、肉親である両親を含む周りの全ての人間には理解できない。

 

周囲とはほとんど関われず、小鳥の鳴き声を聴きながらささやかに暮らす兄弟のひっそりとした生活は、社会の一般的な暮らしからすれば異質なものだと思う。しかし、社会に生きる一般的な人と違って、兄弟は自分たちを偽って良く見せたりすることもせずに、ただただ小鳥の鳴き声に耳を傾けて、その言葉を理解し物事の真理を見抜いて生きている。

表面には見えない、気づかれずに見過ごされたり、都合のいいように理解されて間違った使われ方をされる物を、ただ自分達だけが理解している事で起こる喜びや葛藤の様子を見て、人の暮らしに重要なことは何かということを考えさせられた。

 

教室の隅にいる目立たないが物事の真理を見抜いている、しかし、それが周りには理解されずに結果的に孤立してしまうような人の実直な生き方を後押しするような小説だなと感じた。