何もかも憂鬱な夜に/中村文則

 自分の宿命を意識してもがき苦しむ事とそれに対する救いを描く小説。

何もかも憂鬱な夜に (集英社文庫)

何もかも憂鬱な夜に (集英社文庫)

 

幼くして親に捨てられ施設で育った刑務官が、自分の姿と本来あるべき宿命的な自分の姿の不一致に対する葛藤を描く。

拘置所で働く刑務官として犯罪者達を管理していく中で、自分の生い立ちや両親の事を考えると、雑居房や独居房の中に収容されている彼らのような姿が、本来の自分のあるべき姿なのではないかという疑問と、それに抗う様子が描かれている。

 

高校時代の友人から送られてくるノートを読むシーンが印象に残った。

そのノートに描かれた内容が、何者にもなれない自分や何も手に入れられない自分の焦りや不満を曝け出すような内容なのだけれど、真に迫るものがあった。

 

主人公がある犯罪者に対して、人間と命のあり方について説くシーンも印象的だった。

元々一つだった生命が分裂して、動物や人間が生まれたのだから、命というものは最初の生命から地続きで続いている一つだけで、人間と命は切り離して考えるべきだという考えを説いていた。

この考え方が、宿命的なものに悩みを抱く人に対する救いのように感じられて、これは救いのような小説だなと思った。